ダメ、日大歯学部多浪

東京都渋谷区の歯科医、武藤衛(まもる)さん(62)宅で長女の短大生、亜澄(あずみ)さん(20)の切断遺体が見つかった事件で、警視庁捜査1課と代々木署は4日、兄の予備校生、勇貴(ゆうき)容疑者(21)を死体損壊容疑で逮捕した。「妹から『夢がない』となじられ、かっとなって殺した」と殺害も認めている。
 調べでは、勇貴容疑者は12月30日午後3時ごろ、自宅で亜澄さんの遺体の頭部、両肩、腹部、両足などを自宅にあった文化包丁とのこぎりで切断した疑い。遺体は関節部分で十数個に切断し、4つのポリ袋に入れ、自宅3階の自分の部屋のクローゼットや物入れに分けて隠していた。室内の血痕はふき取っていた。
 勇貴容疑者は調べに対し、「『私には夢があるけど、勇君(勇貴容疑者)には夢がないね』となじられ、頭にきて殺した」と供述。亜澄さんは当時、勇貴容疑者に対して「私は勉強しているから夢が持てる。(勇貴容疑者は)しっかり勉強しないから夢がかなわない」との趣旨のことを話したという。切断した遺体については「後で捨てるつもりだった」と供述しているという。
 武藤さん方は、双方とも歯科医の両親と大学歯学部生の長男(23)、二男の勇貴容疑者、亜澄さんの5人暮らし。勇貴容疑者は、千代田区にある予備校の歯学部受験コースに通っていた。
 母親は12月30日昼、長男と一緒に東北地方に帰省のため自宅を出る際、「後で来なさい」と亜澄さんに話しており、勇貴容疑者は母親らの出発直後に殺害したらしい。武藤さんは30日夜に外出先から帰宅、31日深夜に帰省したが、遺体に気づいたのは帰省先から戻った翌日の3日夜だった。事件発覚を逃れるため、勇貴容疑者は武藤さんに「友達からもらった観賞用のサメが死んだ。部屋に置いてあるが、においがしても開けないで」と言っていたという。
 勇貴容疑者は12月31日から今月11日までの予定で神奈川県で開かれた予備校の合宿に参加。家族とは別に過ごしていた。捜査1課は4日未明、合宿先から勇貴容疑者に同行を求め、事情聴取。追及したところ事件への関与を認めた。
 ◇歯科一家、同じ道目指し浪人
 近所の人によると、武藤さん方は夫妻とも歯科医で、父親の代から地元で開業している。長男は大学歯学部に通い、勇貴容疑者も同じ道を目指していた。
 勇貴容疑者は東京都内の中高一貫私立校を卒業後、私大の歯学部を受験するために医歯学系予備校に通っていた。年齢的には3浪に当たる。予備校は、入学費と授業料が約300万円で、年末からの合宿も約60万円と高額だった。
 近所の無職の男性(65)は「中学のころに『いい学校に入らなければならないんだ』と話すなど勉強に悩んでいる様子が気になった。最近は、頑張れよ、と声をかけたらニコニコ笑っていたし、兄妹の仲が悪いとも聞いたことがない」と複雑な表情だった。
 別の60代男性は「武藤さん夫妻は腕のいい歯科医で、奥さんは数年前、『長男が歯学部に受かった』とうれしそうに言っていた」と、勇貴容疑者への期待をうかがわせる話をした。
 予備校の理事長は「おとなしく、まじめにやっていた。あいさつもしっかりでき、宿題を忘れた時は申し訳ないと自分から担任に謝りに行く生徒だった。合宿中に体調や精神面で変化があれば気づくはずだが、普段と変わらなかったと聞いている。とても信じられない」と肩を落とした。