フラット35投資悪用消えず

長期固定金利の住宅ローン「フラット35」をマンション投資に悪用する不正が一昨年に多数発覚したことを受け、金融機関が融資の審査を強化した後も、同様の不正が続いていることが朝日新聞の取材でわかった。業者にそそのかされた人が、相場より高い価格で物件を買わされて多額のローンを組んだ末、返済に窮するケースも出ている。

 フラット35は、住宅金融支援機構が民間金融機関と提携して提供する住宅ローン。自ら住むためではなく、人に貸して賃料収入を得る目的の住宅購入に使うのは契約違反だ。

 朝日新聞は、2020年以降に投資目的でフラット35の融資を利用した事例を少なくとも3件、利用者本人への取材や裏付け資料などから確認した。いずれも、利子補給のために国の補助金が使われている可能性が高い。

 利用者3人は20~40代の独身男性で、年収300万~500万円台の会社員ら。それぞれ別のブローカーや不動産業者から、「老後の備えになる」「抱えている借金を帳消しにできる」などと誘われ、窓口となる金融機関に「居住用」と偽って融資を引き出していた。審査を通りやすくするため、源泉徴収票などを改ざんして収入を水増ししていた事例もあった。

 購入物件は、築20年以上のマンションや戸建てで、融資額は2千万~3千万円台。同じマンションや地域の類似物件は半値前後で売られており、不動産業者が相場とかけ離れた高値で売って、多額の利益を得ていた疑いが強い。

 3人は、もともとカードローンなどで数十万~数百万円の借金を抱えていた。いずれも業者が全額返済できる資金を提供し、フラット35のローンを組ませていた。物件を高値で売れば回収できるため、融資審査を有利にする狙いもあったとみられる。

 投資目的のため、3人は内部見学もせずに業者任せで物件を購入していた。契約後も、業者から玄関の鍵を渡されていないという。うち2人は、月々のローン返済額と同程度の賃料が業者から振り込まれているが、1人は最初の1カ月分しか賃料を受け取れず、その後はローン返済に苦しんでいる。

 不動産業者などの主導でフラット35の不正利用が多発している問題は、朝日新聞が19年5月に報じ、機構は同年末までに162件の不正を特定。過剰融資が不正の温床になっているとの指摘も出ていた。機構は19年以降、不正利用しないよう顧客への注意喚起を強め、融資審査も強化していた。

 機構は朝日新聞の取材に対し、20年1月以降の契約で不正と確認した例はないとした上で、「現在は価格の妥当性の審査をより慎重に行っている」「金融機関との連携で不適正利用の未然防止に努めているが、今後も必要な見直しは行いたい」と回答した。

 今回の3件の融資を審査して機構に取り次いだのは、いずれも住宅ローン専門会社のアルヒ(東京都港区)だった。アルヒも19年以降、不正利用が疑われる案件をAI(人工知能)で検知するシステムを導入したほか、価格の妥当性も厳格に調べるなど審査体制を強化していた。アルヒは「不正は許さない姿勢で対策を行っており、不正事例があれば、適切に対処する」としている。