今回はプロスペクト理論について解説させて頂きます。プロスペクト理論を一言でいうと人間が感じる価値や確率(体感価値・確率)を定量的に表現するために使う理論です。
プロスペクト理論はカーネマン博士によってノーベル経済学賞を受賞されております。
目次
プロスペクト理論の重要な概念2つ
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価値関数
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確率加重関数
プロスペクト理論には価値関数と確率加重関数という2つの重要な概念があります。難しそうな言葉ですが、内容はいたって簡単です。百聞は一見にしかずという事で早速下記グラフをご覧ください。
価値関数
こちらのグラフが価値関数というグラフで、価値について人間が感じる体感価値と実際の価値との関係を表したものです。
横軸が客観的価値(実際の価値)を表しており、縦軸が主観的価値(体感価値)を表しております。
客観的価値(実際の価値)が+1.0の場合の主観的価値(体感価値)は+1.0という事が分かりますが、客観的価値(実際の価値)が-1.0の場合の主観的価値(体感価値)は-2.25となっています。
この主観的価値(体感価値)の不均衡が何を意味しているのかと言うと、人間は得したときの体感よりも、損をしたときの心理的(体感的)ダメージの方が大きいという事が定量的に表わされています。
つまり、客観的には±1.0の価値でも、体感ではプラスの場合は+1.0ですがマイナスの場合は-2.25というプラスの場合の2.25倍の心理的(体感的)ダメージがあるという事です。
例えば、100万円利益を出したあとに100万円損しても実収支は±0円なのですが、心理的(体感的)には-125万円損した気分だという事です。(100万×1倍 + -100万×2.25倍 = -125万)
価値関数の計算式
出所⇒wiki
上記グラフでは α=0.88、β=0.88、λ=2.25 の推定値を使用
出所⇒Kahneman and Tversky(1992) のレポートの311p参照
確率加重関数
こちらのグラフが確率加重関数というグラフで、確率について人間が感じる体感確率と実際の確率をの関係を表したものです。
横軸が客観的確率(実際の確率)を表しており、縦軸が主観的確率(体感確率)を表しております。
赤い点線が本来の確率です。ここで注目して頂きたいのが、青い矢印の部分と黄色い矢印の部分です。
青い矢印の部分は本来の確率よりも体感的に過大評価してしまう部分で、逆に黄色い矢印の部分は本来の確率より体感的に過小評価してしまう部分です。
つまり、確率が低い場合人間は体感的に過大評価する傾向にあり、確率が高い場合人間は体感的に過小評価してしまうということです。
例えば、宝くじに当選する事(当選確率1/2000万)には期待するが(過大評価)、交通事故にあう(交通事故確率=1/195)なんて考えていない(過小評価)といった感じです。
確率加重関数の計算式
出所⇒wiki
上記グラフでは γ=0.61、δ=0.69 の推定値を使用
出所⇒Kahneman and Tversky(1992) のレポートの312p参照
プロスペクト理論から導かれる答え
一つ目のグラフ(価値関数)も二つ目のグラフ(確率加重関数)も共に、客観的価値・確率(実際の価値・確率)と主観的価値・確率(体感価値・確率)の関係を表したものです。
この体感価値・確率(心理)という漠然としたものを定量的に表す事ができる点でプロスペクト理論というのは非常に面白いと思います。流石ノーベル経済学賞を受賞された理論だけの事はあります。
価値関数によって、価値に関して人間は利益より損失を苦痛と感じるという事が分かりました。これは損失を苦痛と感じるがゆえに損切り出来ずに損大利小のトレードになってしまう心理、又は利益がでるとすぐに利確してしまう心理を証明しています。
確率加重関数によって、確率に関して人間は低確率のものを高く見積もる傾向にある事が分かりました。これは勝率30%のシステムを運用しているのに、毎回利益を期待してしまう心理の証明であります。実際勝率30%というのはほとんどが損切りです。システムを開発した自分でさえも嫌になる程に損切りばかりします。
システムトレーダーの場合、価値関数に関してはシステムが自動で売買を執行しますので特に関係ありませんが、確率加重関数の点については理解しておく必要があります。
自分の運用しているシステムの勝率がいくらで、どのぐらい連敗する可能性があるか把握していても、頭で分かっていてもいざ実際連敗するとガッカリしてしまうものです。
そういう時は私たちがシステムトレードで自動売買している理由を思い出してください。相場は自動売買に任せて、この有限で貴重な時間を相場以外に使えるというのがシステムトレーダーの最大の強みなハズです。
折角自動売買しているのに、取引の度に一喜一憂していては本末転倒です。システムが正常に稼働しているかのチェックだけしてトレード結果は無視する位が丁度いいです。
たとえ米国雇用統計が不利な方に3円飛ぼうとそれだけで一発退場するようなリスクは取っていませんから、どんと構えていきましょう。その為に統計分析してリスク管理している訳ですから。
おまけ:心理テスト
最後に、wikiをアレンジした質問をしてみたいと思います。
Q:あなたは以下の選択肢 aと b のどちらを選びますか?
・a ⇒ 100万円が無条件で手に入る。
・b ⇒ コインを投げ表が出たら300万円手に入るが、裏が出たらハズレ。
こいう問題がでたらとりあえず期待値を計算してみましょう。
aの期待値 = 100% × 100万円 = 100万円
bの期待値 = 50% × 300万円 + 50% × 0円 = 150万円
以上の事よりbの方が期待値が高い事が分かりました。では期待値が高いという理由一点のみでbを選択するべきなのでしょうか?
正解は、プレイできる回数によるです。aの場合外れるリスクはありませんが、bの場合は50%あります。つまり50%に収束するまでの試行回数をプレイできるかどうかが重要となります。
もしこのゲームに1回しか挑戦出来ないのであれば、私は迷わずにaを選択して無リスクで100万円を貰います。
1回しか挑戦出来ないのに、例えばあなたがbの方が期待値が高いからbに決まってるやん!(ドヤァ)と選択してコインが外れた場合、仕方ないと諦められますか?
価値関数によると、150万円 × 2.25 ≒ 338万円を失った心理的(体感的)ダメージを受けることになります。
むろんこのゲームに400プレイ程度挑戦できるのであれば、迷わずbを選ぶべきですが。
確率別の収束速度
つまり、期待値が高いからという1つの理由のみで判断するのは危険だということです。ゲームに参加するにはまず期待値がプラスであることは当然ですが、確率が収束するだけの試行回数プレイできるかを確認してからそのゲームに参加するか判断する必要があります。