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序章 支配者を支配するルール
第1章 政治の原理 「金」と「仲間」をコントロールせよ
第2章 権力の掌握 破綻・死・混乱というチャンスを逃すな
第3章 権力の維持 味方も敵も利用せよ
第4章 財政 貧しき者から奪い、富める者に与えよ
第5章 公共事業 汚く集めて、きれいに使え
第6章 腐敗と賄賂 見返りをバラ撒いて立場を強化せよ
第7章 海外援助 自国に有利な政策を買い取れ
第8章 反乱抑止 民衆は生かさず殺さずにせよ
第9章 安全保障 軍隊で国内外の敵から身を守れ
第10章 民主化への決断 リーダーは何をなすべきか
目次
古今東西の「独裁者」からわかる組織の法則性
本書は題名こそ「独裁者のためのハンドブック」(原著もThe dictator’s handbook)ですが、本書の目的は独裁政治のためのマニュアルではなく、独裁者たち自身も支配されている構造・ルールを知ることで、独裁政治に対抗していこう、というもの。
著者の2人は国際政治・外交論を専門とする大学教授で、ブルース・ブエノ・デ・メスキータ氏は自らコンサルティング会社も経営し、ビジネスにも精通しているようです。
ビジネスの世界でも「ワンマン社長」はよく話題に上りますが、この本でははるかに過激な100以上の国家、政治組織、そして企業の「独裁」事例から、その本質に追っています。
本書で著者らが提唱している、政治を理解するための構造が、「セレクトレート・セオリー(Selectorate Theory:権力支持基盤理論)」というものです。この書評ではそのコンセプトを紹介していきます。
権力支持基盤理論とは
権力支持基盤理論とは、簡単にいうと、独裁者の支配は、以下の3つの層に支えられているというものです。
1.名目的な有権者集団
2.実質的な有権者集団
3.盟友集団
この3者はそれぞれ次のような役割を果たしています。
「『名目的な有権者集団』とはリーダーにとっての潜在的な支持者集団、『実質的な有権者集団』とは、その支持がリーダーに真に影響を及ぼす集団、『盟友集団』とは、彼らの支持なしにはリーダーの政治生命は終わってしまう、かけがえのない支持者集団である。一言でいえば、取り替えの利く者、影響力のある者、かけがえのない者、ということになる。」
そして、独裁的な国家の特徴は大きな「名目的有権者集団」と、きわめて少数の「盟友集団」が特徴的であると述べます。
たとえば、歴史上の独裁国家から、北朝鮮、サウジアラビア、ベネズエラ、カンボジア、ロシアなど現代の国家までこれらの特徴に当てはまります。
大企業も同様で、何百万人もの株主(取り替えの利く者)と、機関投資家などの影響力のある大株主(実質的な有権者集団)、役員や重役を選ぶ人々(盟友集団)によって成り立っています。
また著者は政治の本質は「権力を保持する」こと自体にあるとして、独裁国家と民主国家では、3つの集団の大きさとリーダーのできることが異なるだけであって、本質的には同じである、という指摘もされています。
小さな盟友集団と大きな名目的有権者集団
ではなぜこのような三角形のような形になるのでしょうか?まず小さな盟友集団について以下のように述べられています。
「小さな盟友集団は、リーダーが権力を維持するのに、少人数の人々にしか頼まないことを意味する。必要不可欠なものが少なければ少ないほど、歳出は管理しやすく、自由に使える裁量が増すことになる」
そして名目的有権者集団を大きく保つ理由は以下です。
「大きな取り替えのきく者の集団を維持しておけば、盟友集団にいるトラブル・メーカーの首を簡単にすげ替えられる。(中略)
結局のところ、大きな支持者集団は、盟友に取って代われる者たちを供給することになり、かけがえのない盟友集団に忠誠を尽くし、態度が良くないものはクビをすげ替えるという警告を与えることになる。」
この警告の過激なものが、直近で話題の北朝鮮における処刑であったり粛清となってあらわれると考えれば理解しやすいのではないでしょうか。
そして小さな盟友集団への見返りとして特権やキャッシュが渡されますが、多すぎても少なすぎても裏切りなどが発生してしまうので、常にそのバランスにリーダーの力量があらわれます。
まとめと感想
そのほか、海外援助の支援金はなぜ貧しい国を豊かにしないのか、や政治と教育の関係など多くのテーマが扱われています。
また人物や組織事例もカエサルからヒトラー、スターリン、金正日、HP(ヒューレット・パッカード)、IOC(国際オリンピック委員会)まで、読み物としても面白く、大分類では「政治論」ですが、組織論やガバナンス(企業統治)の観点からも参考になる一冊です。